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東京高等裁判所 昭和53年(く)10号 決定 1978年1月27日

主文

本件即時抗告を棄却する。

理由

本件即時抗告の趣意は、申立人作成名義の即時抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

所論は要するに、本件被告事件の第一回公判期日に立ち会った裁判所書記官乙山高は、東京地方裁判所刑事第一〇部が、これよりさきに開廷した、同部係属の中島和義外八名に対する兇器準備集合等被告事件の第一回公判期日に法廷警備員として在廷し、同期日における右事件の進行状況、裁判所の訴訟指揮、これに対する被告、弁護人らの対応等審理の状況を直接見聞した者であるところ、右被告事件は、本件被告事件と公訴事実を同じくし、各被告人が本件被告人らと共犯関係に立つものとして起訴された事件であるから、乙山書記官において、右事件の前記公判審理を見聞することにより、本件被告事件についての予断を抱き、この予断に基づき本件事件における職務を執行する蓋然性は極めて高いものというべく、したがって同書記官によっては、公平な職務の執行を期待することはできないので、同書記官は、本件被告事件の審理から排除されるべきである。右のとおり、同書記官に対する本件忌避申立には正当な理由があり、もとより訴訟を遅延させることをその目的としたのではない、しかるに、右申立を、訴訟を遅延させる目的のみでなされたことが明らかであるとして、簡易却下した原決定は、違法であるので、その取消を求める、というのである。

しかしながら、本件事件の第一回公判期日に立ち会った乙山書記官について、仮に所論のごとき事実があったとしても、そのことによりただちに同書記官において、本件事件につき不公平な職務の執行をなす虞れがあるということはできず、したがって所論のごとき事由が、同書記官に対する忌避の理由となり得ないことはまことに明白である。かかる事由をもってする忌避申立によりもたらされるのは、ひっきょう訴訟の遅延以外には何ものもない。それゆえ、本件忌避申立を簡易却下した原決定は、正当としてこれを是認すべきである。論旨は理由がない。

よって刑訴法四二六条一項後段により本件即時抗告を棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡村治信 裁判官 小瀬保郎 南三郎)

<以下省略>

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